another side of TIBET2000 緊急事態勃発！
ヤクに乗って喜んでいたＯさん、僕の姿を見るなりヤクから降りる。
「せっかくだから、もうちょっと乗ってたら？　写真、撮りましょうか？」
「何を言ってるんだ！　
この人たちが乗れ乗れ、ってうるさかったから乗っただけだ！」
Ｏさん、相変わらず強気の発言。

僕はヤクを引っ張っていたチベット人に聞いてみた。
「ヒマだから乗せてあげたの？」
「いいや。乗りたい、乗らせろ、ってうるさく言うから、乗せた」

……
やっぱ乗りたかったんじゃねーか…

それはともかく、僕はＯさんに、ガイドが買い物をしてるから、もうちょっと待たなきゃいけないことと、氷河はもうちょっと先に行かないと見ることができないことを伝えた。要するに、ここにあるのはただの峠だ、ということだ。
するとＯさん、氷河がどのあたりにあるのか知りたがる。
一応、僕は聞いたとおりの場所を教えるが、見に行くのはかなり困難らしい、ということも同時に伝えた。
「そっか。それじゃ諦めるしかないね」
とＯさん。

ガイドはなかなか戻ってこない。僕は暇つぶしにそこらの石を拾ってきて、オボ（祈りの塚）に積み上げて遊んでいた。
やがて用事が済んだガイドが戻ってくる。
「じゃ、そろそろ行こうか」
「うん。そうしよう」
「ところで、あんたの頼りない連れはどこに行ったんだ？」
「へ？」
僕はきょとんとして周りを見回す。
　
　
　










































　
　
Ｏさんがいない！
















































「トイレでも探してるんじゃないかなぁ…」
そんな僕の言葉に、ガイドは
「こんなところにトイレなんかあるわけないじゃないか。小便ぐらいならそこらへんですればいいだろ」
と言う。
「でも、大きい方だったら…」
「大便でも小便でも、トイレがないんだから、そこらへんでするしかないよ」
「じゃ、どこかで隠れて用を足してるのかもしれないね」
「そうかもしれない。ちょっと探してみるか」

僕らはＯさんの名を呼びながら、周囲をくまなく探してみるが、一向に見当たらない。
僕の胸に懸念が走った。

もしかしたら氷河を見に行ったんじゃ…

僕はＯさんに氷河のことを説明した旨をガイドに伝える。ガイドは驚いて叫ぶ。

「下手すると遭難するかもしれないぞ！」

僕らはもう、大慌てだ。

ガイドは言う。
「大変だ。遭難者を出したら、俺は失業してしまう！」

僕は思う。
「大変だ。ここで見つけてしまえば、
これから先もずっとＯさんと一緒にいなきゃならない！」

二人の思惑が交錯する。

「彼は自分の意志で行ったんだから、もうしばらくここで待ってみて、帰ってこなければ先に進もう。仮に遭難したとしても、自分で選んだ道だから、彼も本望だろう」
と僕は言うのだが、ガイドは
「ダメだ。俺には子供がいるんだ。失業したら食わせていけない」と言う。

どちらの思惑が大事かと言えば、やはりガイドの失業問題の方が大きい。それは認めざるを得ない。

旅、特に個人旅行というものは、何もかもが「自己責任」だ。だから、これを好機とばかりに、Ｏさんを捨てていきたいのは山々なのだが、仕方がない。探すとするか…。

僕らは氷河に向かう道への入り口まで行き、Ｏさんの名前を連呼する。
「おーい、Ｏさーん。聞こえたら返事しろー！」

だが、返事はない。

「かなり先の方まで行っちゃったのかな？」
ガイドは言う。
「だとしたら、そう簡単には見つからない。ちょっと先の方まで行って見てくるよ」
「あぁ、そうしてくれ。俺はここで待ってた方がいいだろう」
「そうだな。二人とも遭難されちゃ、たまらない。ここで待っててくれ。くれぐれもここから動くんじゃないぞ」

などといった切迫した会話を交わしていると、僕らの背後から、声が聞こえる。
「何してんの？そんなところで」
Ｏさんである。

お前こそ何してるんだ！
そんなところで！

「何してんの、って、Ｏさんを探してたんですよ！　どこに行ってたんですか！」

僕は周囲を散々心配させておきながら、ひょっこりと姿を現したＯさんに怒り心頭で、怒鳴りつけたいのは山々なのだが、ぐっとこらえる。
Ｏさんは飄々と答える。
「氷河があっちにあるって聞いたから、せめてその近くまででも行ってみたいな、と思って…」
「諦めるって言ってたじゃないですか！」
「うん。だからせめて入り口だけでも、と思って。どんなところにあるのか知りたかったから」
ガイドは失業を免れたもんだから、安心して「無事でよかった」などと言っている。安心感から腰の力が抜けたのだろう。その場にへたりこむ。

「う〜ん。まぁ、気持ちは分からないでもないけど…」

俺は氷河への道はこっちだって教えたろうが！

「あっち」じゃなくて、「こっち」だ！

てめー、なに聞いてたんだ！

行方不明になるなら、永遠に見つからないように姿を消せ、っつーの

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