TIBET2000 Day9_3 緑の海へ
帰路はともかく駆け足だった。僕らはニェラムで軽く食事をとる。ニェラムは標高3750メートル。富士山頂とほぼ同じ高さにある町だ。

そこを過ぎると、道は一気に下り坂になる。次に経由する町は、国境の町・ダム。ダムの8km先には、ネパール側の国境の町・コダリがある。ダムとコダリを結ぶ道の途中に「友誼橋」という名の橋がかかっている。

中国側国境の検問所はダムにあるのだが、実際の国境は友誼橋の真ん中になる。その友誼橋は標高1750メートル。そして、ニェラムからダムまでの距離はわずか30km。ダムはニェラムから友誼橋の中間点あたりにある標高2350メートルの町だ。

などと書くと、計算がややこしいが、要するに、ニェラムから友誼橋までは、距離にして約40kmなのだが、標高差は2000メートルもある。つまり、急激に高度が下がっていくのだ。
急カーブが続くがけっぷちの細い道をひた走る。がたがたと車が揺れる。酔いそうになるのだが、空気がどんどんと濃くなっていくのが分かる。同時に体はどんどんと軽くなってゆく。体が軽くなると、気分も軽くなる。

延々と下り坂が続く。荒涼とした大地にちらほらと緑が見え始める。そして、一定の高度にまで下がった途端、周囲はしたたるような緑に包まれる。

まさに「緑の海」にダイブしていくようだ。

それまで、空の青、ヒマラヤの白、大地の茶色、といった色合いに目が慣れてしまっていた僕は、突然現れた緑一色の景色に感動を隠せずにいた。ため息が漏れる。山を覆う木々の緑を見ていると、それまでの過酷な旅の疲れが癒されるようだ。

やはり、自分は緑に包まれた国・日本で生まれたんだな、と妙に納得してしまう。

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