another side of TIBET2000 荷物を探せ！

バスは空港へ向かう。
荷物が見つからず、不安いっぱいの僕らを乗せて、無情なまでに走り続ける。
Oさんは言う。
「なんでちゃんと説明を聞いておかないんだよ」

なんで俺ばっか責めるんだよ

だが、ここでガタガタと喧嘩しても何も解決しない。僕はぐっとこらえて沈黙する。
あんたが大丈夫だって言ったんじゃないか…。そのせいで俺の荷物まで…
と言いたいのだが、ガマン、ガマン。
Oさんはバスに乗っている間中、荷物のことしか話さなかった。明日、小惑星が地球に衝突して人類は滅亡するかもしれない･･･。そんな口調で荷物の話をする。おいおい･･･
見つからなかったら見つからないで仕方ないじゃんよ。なんで前向きになれないかな、この人は…。

「とりあえず、空港に着いたら走り回らなきゃいけませんね」と僕。
「そうだね。見つからなきゃ、俺、行くのやめるかも」とOさん。

いや、あんたが行かなきゃ俺たちのグループみんなが困るんだよ！

やがて無情なバスは空港に到着する。僕らはバスが止まるや否や飛び出して、空港のロスト･ラゲッジへ駆け込んだ。もしかしたら「紛失」扱いになっているかもしれない。僕はつたない英語で必死に係の人に訴えた。
だが、いくら探してもらっても、僕らの荷物は出てこない。
飛行機の出発時刻が刻一刻と迫ってくる。のんびり探してるヒマはない。ともかく急がなければ。
僕とOさんの2人で同じところを探すのは効率が悪いので僕らは二手に分かれて探すことにした。

ロスト･ラゲッジと搭乗カウンターは別の建物になっている。隣、といえば隣なのだが、建物そのものが大きいので、決して近くはない。僕はその2つの建物を行ったり来たりしながら必死で荷物を探した。あちこちの窓口をたらいまわしにされながら。

ネパールは暑い。走り回っているから余計に暑い。僕は汗だくになって走り回っていた。同時に搭乗手続きもしなければならない。けっこう大変な作業だ。ロスト･ラゲッジで、「搭乗手続きをしてくる」と言ってカウンターまで走る。すると例のオランダ人たちが僕を見つけるなり、心配そうに「荷物、見つかった？」と聞いてくる。僕はただ首を横に振るだけ。

僕はそのオランダ人たちに、「搭乗手続きをしなきゃいけないんだけど、荷物探しもしなきゃいけない。手続き、代わりにやっておいてくれないか」といったことを頼んでみた。オランダ人は快くOKしてくれる。
「OK, no problem. But...」
と視線を向けた先に、なんと、Oさんがいるではないか！

なにしてるんだ！　こんなところで！　荷物はどうなったんだ！

僕が「信じられない」といった顔でOさんを見てると、Oさんは僕の視線に気づき、言う。
「荷物、見つかった？」

「いけしゃあしゃあ」ってのは、こういうことを言うんだろうな…

「いえ、まだ見つかりません」
「早く見つけてくれないと、飛行機に乗り遅れるじゃんよ！」

なら、お前も探せよ！

殺意がふつふつと沸いてくる。僕は必死でそれをこらえながら、再びロスト･ラゲッジに走る。オランダ人3人組の1人が心配してロスト･ラゲッジまで来てくれた。だが、Oさんは来ない。
でもやはり、誰が来てくれても荷物は見つからない。僕はともかくあっちこっち走り回る。で、搭乗カウンターに来てみると、やはりOさんはそこにぽつねんと突っ立っている。そして僕の顔を見るなり言う。
「荷物、見つかった？」

だから、お前も探せってばよ！

だが、もうそろそろタイムアウトだ。航空会社のスタッフの車が飛行場に来た。あと数十分後に搭乗が始まる。
僕はすでに2時間近く走り回っており、くたくただ。飛行場のあらゆるところ（滑走路以外）をくまなく探した。だが見つからない。

もうあきらめるしかないか…。
そう思っている時にスタッフが現れたのだ。

僕はワラにもすがる思いでそのスタッフの車に駆け寄った。徐行ではあるが、まだ走っている車の前に飛び出す。車は急ブレーキを踏んで止まった。僕はそこで力尽きて地面にへたりこんだ。スタッフが驚いて車から降りてくる。

スタッフは僕の顔を覚えていたみたいだ。地面に両手をついて倒れこんでいる僕に「どうした？」と聞く（もちろん英語で）。
「ら、ら、らげっじ…。あい、ろすと…」
どこに荷物があるか知らないか？　と聞きたかったのだが、もう、まともに喋る気力がない。この人たちにすがるしか他に方法はないのだが、ここで見つからなければ一巻の終わりだ。もうひとふんばりしなければいけないのは分かっているが、力が出ない。

すると、そのスタッフが僕に尋ねる。
「どんな荷物だ？」（もちろん英語で）
僕は答える。
「深いグリーンの、でかい、バックパック…」（もちろん、たどたどしく切れ切れの英語で）
「OK」
スタッフは言う。何がOKなんだ？　と思ってスタッフを見ていると、彼は車のトランクを開けてその中から僕の荷物を取り出して見せた。

「OH, MY GOD!」

僕は天を仰ぎ思わず叫んだ。俺の荷物！
なぜ「OH, MY GOD」なのかは自分でも分からない。

「Yes, Yes, That's mine.」
もう、嬉しくって仕方がない。あきらめかけてたころに、思わぬところから出てきたのだ。
僕はサンキュー、サンキューと繰り返しながら、スタッフの手からひったくるように自分の荷物を受け取った。
トランクを見るとOさんの荷物も入っている。
「それも…」と言うと、「クレーム・タグがないと渡せない」と言う。僕は荷物を持ってカウンターに走る。

「Oさん、荷物見つかりましたよ。すぐにクレーム･タグ持ってスタッフのところに行ってください！」

するとOさん、「あったのか！」と言うなり僕を押しのけて外へと駆け出す。僕は搭乗手続きを代わりにやってくれていたオランダ人に、とりあえず礼を言おうと近づくと、今朝、同じバスに乗っていた、事情を知っている人たちが僕に拍手を送ってくれた。

「You're Great!」
「What a Good Guy!」
例のオランダ人も含めて、僕の周囲に人が集まってきて、みなが僕の肩をたたき、僕を称賛する。
「あんた、よくやったよ。よく1人で見つけてきたよ。頼りない相棒連れてるだけで大変なのに、本当によくがんばったよ。あんた、グレイトだ！サムライだ！」（もちろん英語で）
ちょっと照れるナ…

荷物を持ったOさんが戻ってくると、周りの人はいっせいに僕から離れた。僕も周りの人たちが何を言わんとしているのか十二分に分かったので、とりあえずその場はそれでよしとして、Oさんに話し掛ける。
「よかったですね。荷物見つかって」
「あぁ、まぁ、必死で探したからね」

うそついてんじゃねーよ！

そしてOさんは言う。
「な、言った通り空港にあっただろ」

………もう、何も言うまい。

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