僕自身ですらない(1993)
ずっと遠くから聞こえてくる鐘の音に耳を澄ましながら
僕はぼんやりと考え事をしていた。

夜の闇を通り抜けてきた何台かの車は
うっすらと明け初めた空を背に
僕の前を通り過ぎてゆく。

いったいどれくらいの時間、ここに座っていたのだろう。
僕は何のためにここへ来たのだろう。
答の出せない疑問が次々と浮かんでは消えてゆく。
答える間もないないほどに、次々と。

今の僕には深く考える気力など残っていないのだろう。
海岸沿いを走る道はうねうねと曲がりくねり
地平線のところで空に吸い込まれてゆく。
その道を見下ろす小高い丘の上で、僕はぼんやりと考え事をしていた。
故郷を離れてからの4年間を頭の中で整理しようとしていた。

もう、君のことはあきらめるよ

以前の僕は何も持っていなかった
そして今の僕はすべてを失ってしまった

一度手に入れたものを失うくらいなら
初めから何も持っていない方がいい
欲しいものが手に入らなければ欲求不満にはなるだろう
だが、欲求不満も失望や絶望に比べれば
取るに足らないようなことに思える。

僕はいったい今まで何をしてきたのだろう
通り過ぎて振り返ってみた時
僕は確かにそこにいる。

何者でもない僕
僕自身ですらない僕が

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